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循環経済への移行における循環性評価指標の活用

2025.12.05
EESレポート

イー・アンド・イー ソリューションズ株式会社
循環経済チーム

はじめに

 UNEP(2024)1によると、1970年時点での物質需要の世界平均は8.4トン/年/人であった一方で、2020年時点には12.2トン/年/人に増加しました。1970年から2020年にかけて世界の人口は37億人から79億人に増えたため、人類による物質需要は1970年から2020年までの50年間で約3倍に増加しました。
 一方で、地球から採取できる物質の量には限りがあります。今後も人類が地球上で繁栄するためには、物質需要と経済発展のデカップリング(未来に向かう時間軸上で経済発展と物質需要が負の相関関係になること)が必要です。この地球スケールの課題に対して、循環経済(※)への移行は、一つの解決策になると期待されています。

※循環経済(Circular Economy)

 資源や製品などをあらゆる経済活動の段階において循環させ、資源投入量・消費量と廃棄物発生量を最小化し、その循環の中で付加価値の最大化を図る新しい経済成長モデルです。
 従来の経済活動である、資源や製品を大量生産・大量消費・大量廃棄する一方通行の線形経済(Linear Economy)からの脱却を図り、経済成長と環境負荷低減を両立する持続可能な社会を実現する取り組みであり、欧州を中心に実践が始まっています。

 WBCSD及びOne Planet Network(2024)2によると、循環経済ビジネスの成熟度は次の4段階で定義されます。

  • ML(Maturity Level)0:循環経済への取組が未実施。
  • ML1:自社の循環性に係る報告を行っているが、製品・サービスでの具体的な取組は未実施。
  • ML2:自社の循環性に係る報告を行っており、かつ循環戦略を事業で実践している。
  • ML3:バリューチェーンやセクターで取組を行っている。

 

 また、ML3に到達する企業が増えることで、循環戦略を有する企業間での活動が活発になり、循環経済への移行が加速度的に進んでいくことが期待されます。
 なお、ここで循環性とは、ある経済システムがどの程度循環経済の原理に寄り添っているかを測るもの3と言えます。
 本レポートでは、上記の成熟度の各段階において、循環性評価指標をどのように活用できるのかをまとめました。

循環性評価指標について

 各成熟度の話に入る前に、まず循環性評価指標とはどういったものかを概説します。
 循環性評価指標は、エレン・マッカーサー財団のCirculariticsや欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)のE5、ISO 59020等、様々な組織が提示してきました。そのうち、WBCSDは2020年1月にCircular Transition Indicator(CTI) v1.0を公開し、その後の改定を重ね、今日までにCTI v4.0を公開しています。CTIは自己評価を行うための指標として設計されており、現在の状況を把握し、改善の方向性や目標を設定し、改善状況をモニタリングするために活用することができます。
 CTI v4.0が提示する循環性評価指標は図1のとおりです。指標は大きく4つの指標群に分けられ、それぞれの目的に応じて使い分けます。最も基本的な指標は、物質フローの循環性を評価するClose the Loopの指標群で、図2に示すとおりです。出典:WBCSD (2023)4に基づきE&ESが作成
GCP:Global Circular Protocol

図1 CTI v4.0が提示する循環性評価指標群

 

出典:WBCSD(2023)4のFigure2をE&ESが和訳

図2 物質循環性評価のイメージ

 実際に循環性評価指標の計算を行うためには、評価の目的に応じて、一次データの入手が必要な項目と二次データ・業界の標準的なデータ等でよい項目に区分し、データを入手・整理することが必要です。特にアウトフローのデータについては、副産物の場合と廃棄物の場合が考えられ、その後の処理・循環実態等のデータを得るには工夫が必要な場合があります。
 なお、2025年11月11日に公開されたGlobal Circular Protocol (GCP)においてもCTIの指標が概ね継承されていますが、Optimize the Loopの指標群が新たにNarrow and Slow the Loopとして再整理されているとともに、1製品あたりの物質使用量そのものに関する指標が追加されています。

各成熟度における循環性評価指標の活用方法について 

ML1:情報開示への活用

 まずは循環性に係る報告を通して、自社の状況を把握する段階となり、物質フローを対象とする循環性評価指標を活用することができます。
 情報開示の取組としては、欧州が先行しています。欧州では企業持続可能性報告指令(CSRD)に基づき、2024年の会計年度からを対象として、サステナビリティ情報を開示することが義務化されました。2025年から、同指令の対象となる企業の報告が始まっています。日本企業についても、EU域内に子会社を有する場合、一定の条件に該当する企業は同指令に基づく報告が求められるようになります。開示すべきサステナビリティ情報はESRSで具体的に取りまとめられており、循環経済に係る事項はESRS E5の「資源の利用と循環型経済」にて記述されています。
 また、GRIスタンダードにおいても、「301原材料」や「306廃棄物」の項目等で、循環経済に関する開示項目が設定されています。
 主な開示項目は、自社の原材料中の再生資源の割合や、廃棄物・副産物の循環利用の状況等であり、上述のとおり物質フローを対象とする循環性評価指標を活用することができます。一方で、次項以降で説明する個別の取組の評価とは指標の利用目的が異なるため、取得すべきデータも異なる可能性があります。情報開示の場合には会計年度に基づいてデータを収集することになりますが、具体的な取組の評価では会計年度にとらわれる必要はないからです。

ML2:個別企業の取組検討・評価への活用

 自社の循環経済ビジネスに向けた取組事項の検討や効果検証の基礎データとして、循環性評価指標を活用することができます。
 個別の取組の循環性評価を行うための、一般的な実施手順を図3に示します。循環性評価を行う目的によって、評価対象とする活動やデータ収集の範囲が異なるため、最初に循環性評価の目的をしっかり定義することが重要です。また、循環性評価は指標を計算したら終わりではなく、指標の計算結果を基礎データとして、機会やリスクの特定を行います。
 特定した機会・リスクについて、具体的な実行計画を策定するにあたっては、外部とのコミュニケーションが重要になります。例えば、通常は最終処分される廃棄物の循環利用を考える場合、そのまま素材として使えるケースは非常に少ないです。よって、素材メーカー等が受入可能な水準まで中間処理を行う必要があり、その具体的な処理の内容等、関係者間での調整が必要となります。また、素材の売却益では中間処理費用の採算が確保できない場合、より大きな範囲でビジネスモデルの見直し行い、利益を確保する仕組みが必要となります。

出典:WBCSD(2023)4に基づきE&ESが和訳

図3 CTIを活用した循環性評価の手順

ML3:バリューチェーンの取組評価への活用

 循環経済の移行にあたっては、個社だけの取組ではなく、バリューチェーン全体で資源価値を最大化・分配することが必要となります。バリューチェーン全体の循環性評価を行うためには、上記の個社単位で適用した評価のバウンダリーを、バリューチェーン全体に拡大する必要があります。そのため、特定の個社の手元にあるデータのみでの評価は難しく、バリューチェーンに参加する各企業からデータを集める必要があります。また、データの収集にあたっては、前提条件等、共通認識を作っておく必要があります。

    最後に

     循環性評価指標を利用することで、個社や製品レベルから、バリューチェーンのように複数社が関わる取組まで、循環性評価を行うことが可能です。一方で、指標の計算結果はあくまでもその後の施策を検討するための基礎データであり、説得力のあるデータを得るためには適切な情報源から適切なデータを入手する必要があります。また、多くの場合にはリソースや時間の制約があることから、これらの条件を踏まえた適切なデータ収集を行う必要があります。
     CTIは自己評価を行うことを目的に作られた指標であり、バウンダリーの設定の仕方などについて詳細な規定はありません。一方で、より多くの関係者と共通言語として共有する、或いはファイナンスセクター等で意思決定の参考とするためには、一定のルールに従って導出された循環性評価指標も必要になります。2025年11月11日に公開されたGCPでは、CTIの評価指標を継承するとともに、評価におけるバウンダリーの設定を含む共通ルールが示されました。今後は当該ルールに基づいた循環性の評価が業界のスタンダードになっていくと期待されます。

    イー・アンド・イー ソリューションズ(株)の循環経済チームでは、顧客の課題やご要望に応え、循環性の評価や循環経済への移行に必要な取組の支援を行っています。さらに、循環経済への移行にあたっては、民間企業の取組だけでなく、地域での取り組みを推進する自治体や、廃棄物の排出元となる消費者も重要な関係者です。循環経済チームでは、民間企業の循環経済移行に向けた取り組みの支援に加え、こうした地域レベルの取組の支援も行っています。

    参考文献

    1. UNEP, 2024, “Material Resource Outlook 2024”, https://www.unep.org/resources/Global-Resource-Outlook-2024, 2025年11月18日アクセス
    2. WBCSD and One Planet, 2024, “Global Circularity Protocol for Business Impact Analysis”, https://www.wbcsd.org/resources/gcp-impact-analysis/, 2025年11月18日アクセス
    3. 村上, 2025, わが国独自のサーキュラーエコノミーとは, 廃棄物資源循環学会誌, 36 巻, 4 号, p. 342-349, https://doi.org/10.3985/mcwmr.36.342
    4. WBCSD, 2023, “Circular Transition Indicators V4.0 Metrics for business, by business”, https://www.wbcsd.org/resources/circular-transition-indicators-v4/, 2025年11月18日アクセス

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